東京高等裁判所 昭和36年(う)1653号 判決 1961年12月09日
被告人 加島実助
主文
原判決を破棄する。
被告人を禁錮八月に処する。
原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(両弁護人の控訴趣意について)
所論中、原判決挙示被害者水野マサ子(中略)は、本件事故により衝突を受けた列車の二、三輛目のほぼ中央左側座席に坐つているとき衝突されたのであるが、その衝突の瞬間驚ろいた乗客がホームに飛び出し、右水野マサ子も座席を離れて出口に赴き、その近くで群集に押されて車内床上にうつ伏に倒れ、その上を多数の人が踏みつけて車外に出たため傷害を蒙つたのであつて、同人が座席を離れないでいるか少し落ち着いて車外に出れば右傷害は発生しなかつたのであり、因果関係からいえば本件衝突事故と相当の関係は存在しないという部分について、なるほど右水野マサ子が原判決判示傷害を蒙るに至つた事情が所論のとおりであることは原判決の挙示する同人の司法巡査に対する供述調書(中略)によつて認め得るところであるけれども、本件のように暴走してきた電車が駅ホームに停車していた電車に衝突した場合に、後者の電車の乗客が狼狽しホームに逃れようとして混乱が生じ、その結果負傷者が出る虞れのあることは実験則上当然予想されることであるから、右水野マサ子が本件衝突事故に驚ろいて車外に逃れようとする乗客に押し倒された上、その身体を踏みつけられたため傷害を蒙つたのであるとしても、右衝突と傷害との間には因果関係があると認めるのが相当であり、右衝突が被告人の過失により生じたものである以上、被告人は右水野マサ子の傷害の結果についても責任があるものというべきであつて、論旨は理由がない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判官 渡辺辰吉 司波実 小林信次)